2020年8月3日月曜日

経済の首絞める「コロナ対策と経済対策」の両面対策

感染症対策委員会は、今なお、PCR検査の数を増やすことを良しとしていない。しかし、他に対策を持つわけでもなく、コロナウイルスの拡大状況を4段階に分類するとか、国民が3密を避けるとか、うろうろとし続けている。


新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。
 最初の感染拡大のピークだった4月には、全国の感染者数が約1万2000人だったのに、7月は約1万70000人と、ここへきて既に上回っている。 7月29日から、全国の新規感染者数が5日連続で1000人を超え、東京都では7月31日に463人と、はじめて400人を突破すると、翌8月1日には472人とさらに記録を更新している。
 この事情を「検査件数が増えているから」と説明する自治体の首長もいるが、だとすれば、それまでは検査を逃れていた“隠れコロナ”が市中にもっといたはずで、実態を正確に把握していなかったことになる。むしろ、検査体制が整えば、現状はより深刻であることを示している。
「重症化しなければいい」というならブラジル大統領と同じ発想
 この状況に、菅義偉官房長官は会見で「大事なのは重症者の数だ」と繰り返している。確かに、東京都ではピーク時に105人だった重症者が、8月1日には15人になっている。だからといって、感染者が増えていいのか。感染が拡がることによって、そこから重症者も増えることは、ちょっと考えればわかる。
 重症化しなければいい、というのであれば、それは新型コロナウイルスも、普通の風邪のようなものだ、と言い放っているに等しい。ブラジルのジャイル・ボルソナロ大統領といっしょだ。
 ボルソナロ大統領は、当初から「新型コロナはただの風邪だ」と言い放って、経済活動の継続を優先していた。マスクもしていなかった。7月には本人が感染するも大統領公邸での自主隔離の末に、重症化することなくいまは回復している。
 いったい日本はどうしたいのか、方向性がまったくわからない。7月から感染者数が増加傾向に転じていたにもかかわらず、政府は「Go To トラベル キャンペーン」を当初の予定よりも前倒ししてはじめた。しかも、開始の直前になって東京を外して、いまも継続中だ。人の移動は、感染拡大のリスクを高める。それでも、経済活動を止めるわけにはいかない、というのが政府の方針だ。
 ところが、その一方で国民には、感染防止に尽力せよ、と呼びかける。“アクセルとブレーキをいっしょに踏む”と揶揄される政策だが、それでは新型コロナウイルス感染症の終息はどこにあるのか、その絵柄がまったく見えてこない。出口がわからないのだ。

経済活動、締めて、緩めて、また締める 目的の曖昧さと二重性は、75年前の敗戦へと戦局を大きく変えたミッドウェー海戦の失敗に通じることは、以前にも書いた。

 真珠湾奇襲攻撃以来、連戦連勝を続けていた日本軍は、ミッドウェー島の基地を攻撃し、援軍として出てきた米太平洋艦隊の空母部隊を撃滅する作戦を実行する。太平洋での戦局を優位に持ち込みたい狙いがあった。
 ところが、作戦開始から敵基地を攻撃していた第一航空艦隊司令長官の南雲忠一は、敵の空母の出現に備えて待機させていた残りの航空部隊を、第2次攻撃に出撃させようと、装填していた魚雷から敵基地攻撃のため陸用爆弾に転装させた。基地攻略を優先させたのだ。
 すると、この作業中に索敵にあたっていた偵察機から敵空母発見の報が入る。南雲は前言を翻すように陸用爆弾から雷装への転換を命じ、出撃の準備を進めていたところへ、米軍の急降下爆撃機の攻撃を受ける。結果的に真珠湾攻撃以来、太平洋における中心的な役割を果たしてきた大型空母4隻を失い、戦局を一変させている。
 空母の撃滅と基地攻略という目的の二重性が、大敗を呼び込んだ。真珠湾攻撃の成功で気の弛みがあったとも指摘されている。
参考記事:曖昧なコロナ対策、行き着く先はミッドウェーの失敗https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/61452

 経済を優先するのか、感染拡大防止を徹底するのか、その二重性がいまの感染者の数値として表れている。
 ここへきて、東京都では8月3日から、都内の飲食店とカラオケ店の営業を夜の10時までとするように要請した。大阪府でも6日からミナミの一部の飲食店に営業を夜の8時までとするように要請している。愛知県でも名古屋の一部の繁華街で飲食店などに休業や営業時間の短縮を求める方針だ。
 感染者が急増して人口10万人あたりの感染者数が全国で最多になった沖縄県では、1日から独自の緊急事態宣言を出して、県民の外出自粛を要請している。これを受けて、観光名所の美ら海水族館も閉館になった。
 結果的に、こうして経済活動も止まっていく。それで感染者の増加も止まらない。
 市井ではもっと早くから、その影響は出ている。東京・新宿の和食料理店の経営者は、私にこう零している。
「緊急事態宣言が解除されて、6月の初めにはわっと予約が入った。それが新宿歌舞伎町でホストの集団感染が伝わると、急にキャンセルが増えて客足が遠のいた。このままだと経営も厳しい」
 風評とまでは言わずとも、問題の根本を指摘しながら、効果的な対策をとらなかったことが、経済活動にも影響を与えている証左だ。感染拡大が経済を萎縮させる。
終息に向けたロードマップも示されない様に、泥沼化の予感
 安倍晋三首相は3月からの全国一斉休校を要請した直後の2月29日の会見で、こう述べている。
「率直に申し上げて、政府の力だけでこの闘いに勝利を収めることはできません」
 すでにこの時点から彼の頭の中では、これは新型コロナウイルスとの“戦争”と位置づけていたことが透けて見える。
 緊急事態宣言を発出して感染拡大が止まったことで気を好くしたのか、経済活動の再開と感染拡大の防止というふたつの目的を掲げてこの有り様だ。
 政府の新型コロナ分科会でも専門家が、このままだと感染拡大がどうなっていくのか、警戒を呼びかけるのはいいが、この事態をどう終息させるのか、そのグランドデザインもロードマップも示されてはいない。
 それは米国と太平洋で戦争をはじめたのはいいが、その終局をどこにおこうとしていたのか、戦局が悪化しても具体的な展望も描けないまま、あの時と同じような泥沼にはまっていきそうな気がしてならない。

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