2020年9月22日火曜日

シニア起業を真剣に考えてみよう

 

定年後は起業家に 支援制度を活用、老後のお金補う

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2020/9/19 2:00
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起業支援の銀座セカンドライフ(東京・中央)が都内で開いたセミナー

起業支援の銀座セカンドライフ(東京・中央)が都内で開いたセミナー

体が健康であれば少しでも長く働きたい。そう考える人は多いだろう。老後のお金への心配が高まるなかではなおさらだ。働き方はいろいろあるが、これまでの経験やスキルを生かし自ら事業を起こすのも一つの選択肢だ。融資や助成など「シニアの起業」を促す支援制度も整いつつある。

■広がるシニア起業の裾野

「制度は毎年変わる。よく確認して自分にあったものを活用しましょう」。10日、都内で開いた銀座セカンドライフ(東京・中央)主催の創業支援セミナーで、講師を務めた片桐実央社長はこう強調した。テーマは「助成金・補助金」。創業を計画している人や創業して間もない人など約10人が参加した。

銀座セカンドライフは主に中高年向けに起業支援や事務サポートを手がける。「10年前に比べ様々な支援の仕組みもでき、シニア起業の裾野は広がっている」と片桐社長はいう。

日本政策金融公庫総合研究所によると、開業時の年齢で50歳以上の比率は2019年度の調査で25.7%。高齢化の進展もあり、平均年齢は43.5歳で調査開始以来、最高になった。これは同公庫の融資を受けた人を対象にした調査で、蓄えた自己資金で事業を始める人も加えると、シニア比率はより高いとみられる。

一方、平均開業費用は1055万円と最低を更新した(グラフA)。2000年と比べ約500万円少ない。IT(情報技術)化やネットビジネスの広がりに加え、まず小さく始めて成長を目指すのがトレンドになっているためという。

小規模の起業が増えているとはいえ、事業を始める際にまとまった資金が必要になる場合は多い。手当てする方法は主に(1)融資(2)助成金・補助金(3)クラウドファンディング(CF)――の3つがある。シニア世代向けの支援制度もあり、有効に活用したい(表B)。

日本政策金融公庫が国民生活事業として手がける「女性、若者/シニア起業家支援資金」は35歳未満と55歳以上を対象にした融資制度だ。女性は年齢にかかわらず利用できる。

融資を受けられるのは新たに事業を始める人や事業開始後おおむね7年以内の人。融資限度額は7200万円(運転資金は4800万円)になる。条件に該当する人は金利が優遇され、現在、期間5年で2%前半になる。特許をもっているなど技術・ノウハウに新規性がある場合は、さらに特別な利率が適用される。

■地方自治体も力

シニアの起業支援には地方自治体も力を入れる。東京都が手がける「女性・若者・シニア創業サポート事業」では、信用金庫や信用組合と連携し低利融資するほか、資金計画や販路の開拓など専門家からアドバイスも受けられる。

融資と違って返済する必要がないのが補助金や助成金だ。国や地方自治体から受けられる様々な制度がある。厚生労働省が管轄する助成金の生涯現役起業支援コースでは、40歳以上で事業を起こし中高年を雇用する場合、その採用に関わる費用の一部を支援する。

インターネットで幅広く資金を募るクラウドファンディングの活用を促進する制度もある。東京都の支援を受け銀座セカンドライフが実施するCF活用助成金では、事業者に支払う手数料など費用の2分の1、上限30万円を支援する。今年度は新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえて拡充され、一定の条件を満たせば、手数料の3分の2、上限40万円を受けられる。

補助金などは原則、後払いで、経費をかけた後に支払われる。経費をかける前に申請し、審査で認められる必要がある。

21年4月施行の改正高年齢者雇用安定法では、70歳までの就業を支援する措置が企業の努力義務になる。定年延長や継続雇用の一方、業務委託契約なども広がれば、シニア起業はさらに増える可能性がある。

■過剰な期待は禁物

もっとも起業しても思った通りの収入が必ず得られるわけではない。日本政策金融公庫総研の調べでは、創業後の採算状況が「赤字基調」という回答は50歳以上では40%台。それより若い層が20~30%台なのに比べて苦戦が目立つ。シニアの場合、収支にこだわらずに事業をするケースが多いためでもあるが、起業に過剰な期待は禁物だろう。

同総研の井上考二主席研究員は「特にコロナ禍ではITのリテラシー(基本の知識)が問われ、従来のスキルが通用しにくい場合もあることに留意しておくべきだ」と指摘する。

証券会社を定年退職後、資産運用や年金の情報を発信する会社をつくった大江英樹氏も、事業が軌道に乗ったのは3年目からだった。それでも大江氏は自分の裁量で働ける起業を資産寿命を延ばしたいと考えるシニア層に勧める。成功のカギとして「何をやりたいか企業理念をはっきり定め、できれば数年前から準備するのが望ましい」と話す。

(編集委員 橋本隆祐)

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