2013年3月20日水曜日

赤がえるさんの謎

 この誌面をお借りして、赤かえるさんのことを御紹介することは誠に光栄の至りとするところであります。彼女との付合い・・思い起こせばそれは谷津田での去年二月の産卵調査以来で、卵塊だけはまあ存分に見たのですが、その御姿には秋になり漸く接することが出来たのです。銀輪部隊”花の会”、彼らは、いや彼女達は自転車で市内の谷津田を走りまわり野草観察を続けていたのですが、絶滅に瀕している野草を残さんと奮い立ち、谷津の休耕田を借受けて草ぼうぼうの田圃を先ずは草刈りとなったのですが、同じく谷津田を遊び場としている私もその応援に駆出されてしまいました。そこの休耕田で、ぴょん、ぴょん、ぴょんと三跳びして雑草の陰にきえる彼女を(いえ花の会のメンバーではなくて赤がえるさんなんですよ)目撃したのです。最初のぴょんの、まさにその瞬間に、私の胸はきゅううんと音をたてました。いえいえ、心臓発作ではなくて、それは、私が小学校高学年の時に”のんちゃん雲にのる”を演ずる鰐淵晴子さんを見た時の感激と同じでした。ところで、先日NHKの銀河ドラマで、彼女が・・いえ、赤かえるさんではなくて鰐淵晴子さんですが・・彼女の出演を知りテレビのチャンネルを子供から奪ったものの、鰐淵さんは最初の一回目に殺されてしまいました。NHKさん、あんまりやないか!
  さて、その時彼女は橙色のコ-トを着て・・いえ鰐淵さんではなくて、赤かえるさんのことに話は戻っています。彼女の美しくスマ-トな姿態にほれぼれとしたのです。谷津の斜面林に住む彼女は、派手なコ-トにも似合わず人見知りする質のようで、殆ど人前には現われません。それに、かなり頑固というか保守的な性格らしく、限られた場所、ほぼ水溜まり程度の深さを好み、とにかく流水には全く産卵しないなどと、まるで人が作る田圃が最適で、人の気配が失せるともに絶滅への道を歩むようです。その頑固さ故にこそ人の変わりように追付けず、静かに静かに消えて行く運命にあるようです。
 しかしながら、彼女の卵は丸く丸く見事な形状で、ひきがえるさんの長い紐をずるずると引きずり産卵したかのような下品な卵に較べれば、それはそれは遥かに芸術的な作品でありまして、派手なコ-トで人見知り、頑固で凝り性となれば、これは明らかに芸術家と決まりました。かような人物の行動把握は極めて困難で、今年も保品谷津のみならず石神谷津でも産卵調査をしましたが、彼女の行動パタ-ンについては謎が深まるばかりです。
  今年は3月2日頃から産卵を始め、谷津田の多くの田圃から、好天が続いても干上がりにくい三ヶ所だけに産卵していまして、3/2日 37個、3/3日 47個、を確認したのですが、3/16日には寒さと干水で崩壊と死滅が始まり殆ど全滅となってしまいました。いずれにしても去年に比べれば今年の産卵数は激減となっています。
  それにしても、産卵調査を進めれば進めるほど彼女に関しての謎は深まるばかりです。先ずは広々と草も無い水を湛える水溜りには産卵の気配もなく、それはなぜか?と考えてしまいます。赤かえるの産卵場所には必ずと言っていいほど後日にはひきかえるが産卵していまして、これもまた、なぜか?と呟いてしまます。
  僅かに生き延びた卵塊では3月23日には孵化が始まったのですが、小さなお玉がぴくりとも動かず堆積する様子から生存率は極めて劣悪と窺えて、生きていること自体がいかに貴重なことかと実感したのですが、その日に新たな卵塊を数個発見することになりまして、これは果たして二度目の産卵か、それとも寝坊の赤がえるの産卵なんでしょうかねえ?。  
  4月6日に様子を窺いますと赤かえるのお玉がひきかえるの卵に付着したまま動きません。ひきがえるの卵は赤かえるに取っては危険な物なんでしょうか?その後、ひきがえるのお玉はうじゃうじゃと見掛けるのですが、赤かえるのお玉は日々目撃数が少なくなってしまいます。泥の中にでも潜り込むのかと考え込んでしまいます。
 八千代の谷津を知ってから三年になりますが、谷津とその斜面林では、テレビで放映の岩跳びペンギンとかザイ-ルのボノボやマウンテンゴリラとかの、心を打つ命の躍動と戦いのドラマに勝るとも劣らない数々のドラマが演じられていることに漸く気付きました。たいして意味の無い区画整理事業と無差別な開発からすると赤かえるさんの命も風前のともしびですが、彼女はふんと嘲笑うかのように、今年も一度だけぴょんぴょんぴょんと跳ね飛ぶ御姿を披露してくれました。彼らの運命がいずれは人にも訪れる運命だと知っているに違いありません。40億年にも及ぶ命の鎖の繋がりのなかで、恐らく、遠い昔には鎖を共有していた赤がえるさんと、この私とが、今この一瞬を共に生き、すぐに無機質となるのですが、いつかは、同じ命の中に吸収されることもあるかと思えます。その時には、かえるさん、やごさんとか、やまと蜜蜂さん、どじょうさんとかになってもいいなあと、しみじみ考える歳になってしまいました。今はただ、赤かえるさんの数々の謎をもっと究明したいと、古畑任三郎さんの心境になっています。
 えっ、何ですか?はあ、なんで赤がえるの産卵調査をしているかとお尋ねですか。そう、それもまた歳のせいやと・・言う以外には答えようがありませんなあ。
 

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