2024年2月17日土曜日

円相場についての総括的な記事です。

 後学のために写しておきます。

円相場、波乱要因が山積 新NISAや訪日客も影響

円相場の流れがつかみづらくなっている。昨年末にかけて米国の早期利下げ観測から円高・ドル安が一気に進んだが、年明け以降は一転して円売り・ドル買いが優勢になるなど、売り買いが交錯する状態が続いている。円買い材料と円売り材料が混在していることが原因だ。今年は相場の値動きを荒くする不透明要因も山積しており、個人の外貨資産投資は一気に進めず、積み立て方式を基本に考える方が賢明だ。

金利差と需給差を反映

円相場は基本的に、日米間の金利差と需給差を反映して動く。日本よりも米国の金利の方が高い現状では、日米間の金利差が広がれば円安方向に、縮めば円高方向に動きやすくなる。一方、需給差は国境をまたぐ貿易やサービスの収支が影響しやすい。日本が黒字になれば円高方向に、赤字になれば円安方向に動きやすいと考えればいい。

2つの基本要因のうち、まず日米間の金利差をみると、歴史的円安後の3カ月間は緩やかに縮んでいく傾向にある。背景にあるのは、米連邦準備理事会(FRB)が年内の早い時期に政策金利を引き下げるという見方だ。一方で日銀がマイナス金利政策を早期に解除するという観測も根強く、昨年末までは日米金利差の縮小観測に伴う円高傾向が続いてきた。

だがその後、FRBのパウエル議長が政策金利について話し合う1月31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で、早期の米利下げに慎重な考えを表明。金利差の縮小が一服したことに伴い、円高圧力も弱まった。

もう1つの需給差は、円安材料として働きやすい状況が続いている。財務省が2月8日に発表した2023年の国際収支状況によると、日本と海外の間のモノやサービスのやり取りを示す貿易・サービス収支は9兆8000億円余りの赤字だった。資源高の一服で輸入額が減少し、赤字幅は前年に比べて大幅に縮小したが、円安材料になりやすい構造自体は変わっていない。

みずほ銀行の唐鎌大輔氏は「サービス分野では、訪日外国人客の回復で旅行収支の黒字が増えたが、宿泊・旅行業の人手不足が深刻で一段の黒字拡大には限界が見える。一方、米巨大IT(情報技術)企業によるサービス提供で増えたデジタル関連の赤字はさらに膨らむ可能性が高い」と指摘。今後も貿易・サービス収支は年間5兆円規模の赤字基調が続きやすいと予想する。

金利差要因に基づく円高と、需給差要因に基づく円安の混在。円相場が昨年末から今年初めにかけて方向感の定まらない値動きを続けてきたのはこのためだ。しかも金利差や需給差に影響を及ぼす新たな不透明要因も山積している。

米地銀不安・「もしトラ」に目配り

今後、需給差を大きく左右する可能性が高いとみられるのが、今年から大幅に刷新された少額投資非課税制度(NISA)の影響だ。ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融氏が新NISAで人気を集める外国株式に投資する主要25投資信託への資金流入額を集計したところ、今年1月は1日平均で約452億円が流入し、昨年の1日平均流入額約116億円の4倍近くに達したという。

この流入ペースが年間を通じて持続することは見込みづらいが、それでも佐々木氏は「年間10兆円程度の新たな円売り需要が生まれる可能性を否めない」とみる。年間10兆円といえば、昨年の貿易・サービス収支の赤字幅に匹敵する規模だ。

市場では米利下げに伴う日米金利差の縮小で、今年後半にかけて緩やかな円高・ドル安傾向になるという予想が優勢だが、新たな需給差要因の登場は想定外の円安圧力を生み出す可能性がある。

不透明要因はそれだけでない。昨年春に続いて浮上した米地方銀行の経営不安だ。商業用不動産市況の悪化による業績の悪化は、米景気の減速が見込まれるなかで、金融市場に少なからぬ動揺を与える可能性がある。

野村総合研究所の木内登英氏は「米地銀の貸し出しが落ち込めば、米経済にとって逆風。状況次第では、FRBが早期利下げに踏み出すきっかけになり得る」と読む。昨年末の円高進行時と同様に、米早期利下げ観測による日米金利差の縮小が円高の再燃を連想させる。

それだけではない。中国経済の停滞が長引けば、訪日客が伸び悩み、日本での消費に使う円買いも強まらない可能性がある。半面、中国から日本への資産移転が円買いを招くことも考え得る。

経済以外の要因も見逃せない。「もしトラ(もしトランプ氏が米大統領選で勝ったら)」シナリオが現実になれば、対日貿易赤字への批判が強まり、円買い要因である日本の輸出に悪影響を及ぼすという連想が働きかねない。ウクライナ情勢や中東情勢がさらに深刻になれば、「有事のドル買い」が強まるかもしれない。

外貨資産投資、積み立て基本に

新NISAスタートとともに、個人の外貨資産投資への関心はいつになく高まっている。だが、最も円高が進んだ局面で将来の円安進行を予想して投資するのは至難のわざ。突然の不透明要因の顕在化で為替差損を被るリスクも小さくない。

新NISAの制度設計を生かし、円高時も円安時も一定額を毎月こつこつと積み上げていくことが、方向感をつかみづらい不透明な相場環境を乗り切る一つの解だ。やはり個人の資産運用は、長期・分散・積み立ての王道が有用な方法といえる。

「円弱」時代、為替みる目養う

佐々木氏は最近、こんなリポートを書いた。「円が安全通貨に戻らない理由」。長らく市場には、金融危機や地政学リスクなどの不安が高まったとき、「有事の円買い」として円相場が高騰するという意識が根づいていた。低金利の円を借りて高金利の通貨に投資する「キャリー取引」を手がける米欧の投資家は有事になると、一気に取引を解消して円を買い戻す。そこに円高を嫌う輸出企業の円買いが重なり、急激な円高局面が繰り返されてきた。
だが日本は、貿易黒字国から貿易赤字国へと転じた。言い換えれば、恒常的にお金が海外に流れ出す「円弱」の時代に入ったわけだ。市場環境が変われば、常に円高を恐れてきた日本の個人も、低金利の円資産に投資対象を縛られなくなる。
外貨資産が個人の投資対象に明確に入ってくれば、誰もが円相場について学ぶ必要性が出てくる。単に新NISAブームに流され、人気の外国株投信などを買うのではなく、円相場の動向を見ながら投資先の吟味や分散、タイミングを考える。「円相場は小難しい」と避けるのではなく、将来の資産形成に欠かせない知識として積極的に身につける姿勢が必要になる。(編集委員 小栗太)

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