安倍前首相、17年の衆院解散判断「一番当たった」
安倍前首相インタビュー詳報(下)
- 2020/9/29 11:30
- 1875文字
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安倍晋三前首相へのインタビューは24日に実施した(東京都千代田区)
安倍晋三前首相は日本経済新聞のインタビューで7年8カ月超の政局運営を振り返り、2017年の衆院解散の判断が「一番当たった」と語った。小池百合子東京都知事の率いる地域政党が国政進出の準備を整える前に、先手を打って圧勝し「逆『桶狭間』という状況」になったと話した。
――12年12月の第2次安倍政権発足後、すぐに経済政策「アベノミクス」を打ち出しました。
「金融緩和、財政政策、成長戦略という3本の矢で空気が変わったのは事実だ。まず株価が先行し、行き過ぎた円高の中でどんどん海外に出て行った企業が皆、方針を変えることになった」
――当初2年で達成を目指した2%の物価目標は達成できていません。
「その本当の目的は名目GDP(国内総生産)を持続的に発展させ、常に投資がなされ、給料が上がっていく状況を作り出すことだ。同時に大事なのは雇用状況を良くすることだ。米大統領選でも世界でも何が問題になるかというと常に雇用だ。雇用は新たに400万人増やせた。目標は十分達成することができた」
――消費税増税の時期を2度延期しました。
「税率を上げることで税収が増えなければ意味がない。景気が腰折れしては元も子もない。あのとき延期した判断は間違っていなかった」
――日本が主導して環太平洋経済連携協定(TPP)の発効にこぎつけましたが、米国は離脱しました。
「トランプ米大統領を相当説得したが、大統領選で約束したことだから、ということだった。(地球温暖化対策の国際枠組みである)パリ協定の離脱やエルサレムへの米大使館の移転など、選挙で約束したことは大体やっている。これはある意味ですごいことだ」
――米国にTPPの枠組みへの復帰を呼びかけますか。
「トランプ政権の間は難しいのではないか。それよりもまずは安倍政権の最後に大枠合意した日英の経済連携協定(EPA)だ。ジョンソン英首相はTPPへの参加にも意欲を示している。英国が入ればだいぶ変わる」
――学校法人「森友学園」「加計学園」を巡る問題への対応には批判があります。
「政権に何の違法行為もなかったのは明らかだ。ただ政権運営にあたって疑いをかけられないよう注意すべきだった。お金をもらって何か便宜を図ったことは全くないのは最初から明らかだったが、なかったことをないと説明するのは難しい」
「公文書改ざん問題もあったが、私自身に関わる違法行為はなかったと明らかになっている」
――憲法改正では17年に20年の新憲法施行を目標に掲げましたが、達成できませんでした。
「あのときはまだあと3年あるということもあったが、残念ながら達成できなかった。政権には政権の体力というものがあり、その体力をつけるために国政選挙で勝ってきた。特定秘密保護法や安全保障関連法、消費税を2度引き上げる判断も体力を奪うものだった」
「改憲も非常に政治的エネルギーを消費した。国会で議論すべきだという点は多くの国民も支持している。菅政権でも取り組んでほしい」
――政権復帰前の衆院選を含め、国政選挙で6連勝しました。
「自分で言うのもなんだが、衆院解散の判断で一番当たったのは17年秋の衆院選だ。森友・加計問題で責められ、支持率も少しずつ下がっていた。17年8月に支持率が少し上がった。独自の世論調査によると、260議席ぐらいは取れそうだった。翌年の衆院議員の任期満了に近づけば負けかねない。それならどこかで勝負しようと考えた」
――当時、小池氏が率いる「都民ファーストの会」の国政進出が取り沙汰されていました。
「いちかばちか小池氏の準備が整っていないときに襲いかかるしかないと思った。自民党内でも反対された。結果として小池氏への支持が広がらず、自民党が284議席を得た。逆『桶狭間』という状況になった」
――小池氏が「希望の党」を結党したときはどう感じましたか。
「ヒヤッとした。17年9月25日に衆院解散を表明する記者会見を開いたが、同じ日に小池氏が『希望の党』を結党した。メディアでの扱いも小池氏の方が大きく、勢いが出そうな感じだった」
――衆参同日選挙は結局しませんでした。
「メリットは何か、だ。中選挙区制の時代は1選挙区に自民党から複数の候補者が出て、それぞれ個人の後援会があった。同日選にすれば、衆院の候補者が自分たちの後援会をフル稼働させ、参院の票を上積みできた」
「小選挙区制になり、特にいまの当選1~3回議員で個人の後援会をつくっている人は少ない。そうなると参院選単独と衆参同日選で、参院選での票の出方はさほど変わらない。衆院で議席を減らすリスクをとる必要はないと考えた」